石橋千秋写真集 『 時を刻む』

 

2011年暮、I 氏の姪御様からの突然の電話で始まった、『 I 氏オリジナルカレンダー』について、「しごと」 で紹介させていただきました。

 I 氏 オリジナルカレンダー『四季の京都』

この I 氏より、カレンダー制作直後から、写真集を作りたいとの依頼を受けていました。

舎主の身体が空かず随分お待たせしてしまいましたが、5月から制作に取り掛かりました。

 

ここでは、どのように写真集が出来上がるか、時間を追って紹介させていただきます。

 


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5月5日

初めての打ち合わせに、東京在住の I 氏を訪問しました。

実は、 I 氏にお会いするのはこれが初めてです。

旅行が好きで、山や自然や古都の風景を愛し、40代の頃から沢山の写真を撮ってこられました。

90歳を越えられた年齢の方の人生の一面を、一冊の写真集に収めると思うと、気が引き締まります。

 


後日、ダンボール箱3つに詰まった写真とネガが送られてきました。

写真はアルバムに整理され、ご自身が気に入った物は、大判に引き伸ばされています。

デザイナーを入れて、良い写真集を作って欲しい、ということだけが I 氏の出された希望です。

テーマや構成・掲載写真の選択は全て任せる、とのことなので、これら全てに目を通して写真を選択していきます。

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6月23日

1ケ月余りの間に、全ての写真とネガに目を通しました。

そして、”これは”と思う写真をピックアップしていく中で、写真集の構成も決めていきます。

 

「古都の四季」「自然の風景」「石の佛」「日本の町と村」「東京」「 I 氏フォトレート」(全て仮題)でいってみようと決定、その後、何度も掲載写真を足したり削ったり、迷いながら選択していきます。

 

ところが、写真には撮影場所の記載がないものが多いので、有名な観光地ならばすぐ判断がつくのですが、それほど有名ではない場所、しかも数十年前となると、特定にも時間がかかるものがあります。

 

選んだ写真の中で印象的な例をひとつ。

見事な紅葉と石の写真。お気に入りの場所なのでしょう、何年かにわたって、何度も写真に出てきます。

ネガの前後から、京都であることは判断がつきますが、始めは場所が全くわかりませんでした。ただ、選んだ写真以外の同じ場所を撮った写真にぼんやりと「古知‥」らしき文字の標識が見えます。

もしかしたら古知谷?と尋ねてみたら当たりでした。

確かに紅葉が美しく、谷川に沿い長い石段を登った上にある「阿弥陀寺」は素晴らしい所ですが、大原よりまだ先にあり、今でも訪れる人は多くはないというのに、数十年も前に目に留めていた方が身近に現れるとは、何と嬉しいことでしょう。

 

そして、デザイナーの手を経て、「カンプ」(業界用語:レイアウトが判るように、写真をパソコンで取り込み、作品のタイトルを入れてプリントをしたもの)ができました。

写真集のサイズは縦24cm、横25cmです。

まずは、現在できている「古都の四季」と「石仏」のカンプを I 氏に見ていただき、他の章もこの形で進めてよいかを確認します。

また、他の候補写真も何枚かピックアップして持参し、入れ替えや追加などの希望を聞きます。

それらのため、再度東京の I 氏を訪ねます。

 

下が出来上がったカンプです。

 

 



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7月1日

新たにできた表紙のカンプも持参し、 I 氏を訪ねました。

とても喜んで見てくださり、嬉しい限りです。

構成と選択した写真はそのままでOKと了解を得ました。

 

実は、「写真集」という出版物としては、もう少し掲載する写真の数を減らした方が、一枚一枚の写真を際立たせる効果が上がる事もある、との提案もしました。

しかし、I 氏としては、選ばれた写真には、どれにも深い愛着と思い入れがあり、このままでいきたいとのことでした。 至極もっともです。

こうして、注文者に違った視点からの提案もしながら作っていくと、「これを作ること」の目的がお互いにはっきりしてきます。

 

 I 氏からの注文もありました。

本のサイズを大きく、縦30cm・横30cmにすること、部数は200部にすることの2点です。

立派な写真集が出来上がりそうです。

 

次は、新たなサイズに合わせてカンプを全て作り、それで了解が得られれば、試し刷りです。

 

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7月7日

写真集に掲載する全ての写真のスキャンニングが終りました。

デザイナーに渡すために、解像度を落として保存したファイルを一部ご紹介します。


これら一枚一枚の写真が、デザイナーの手によって、サイズや配置がデザインされて、一冊の「本」のかたちになります。

同時並行で、本番の印刷のために、画像の色を修正する作業が進められていきます。

両方の作業が完了すると、いよいよ試し刷りです。

 

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7月31日

カンプが全て出来上がりました。

写真集の名は 『時を刻む』

 これを I 氏にお見せしてOKが出れば、いよいよ試し刷りです。


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9月15日

とうとう試し刷りが出来上がりました。

この間に校正が完了した、I 氏の略歴やあとがきなどの文章も載せられ、写真集として、ほぼ完成に近い形でお見せできるものです。

本日、これを携えて東京の I 氏を訪問し、見ていただいたところ、大変喜んでいただき、これで本印刷に入って良しとの了解を得ました。

そして、10月1日に、知り合いの方々にお渡しする席が予定されている為、間に合わせて欲しいとの注文もお受けして戻りました。

さて、印刷・製本の外注先に、発破を掛けなければなりません。

 

 

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写真集が完成しました。

9月30日、石橋氏のお手元に届けることができました。

 

この写真集の記事を読み、完成を楽しみにしてくださっていた方々、ありがとうございました。

出来上がった写真集の概要を紹介させていただきます。

 

掲載した写真は全部で54枚。

石橋氏が生まれ育ち、医院を開設された、新宿の熊野神社の枝垂桜から始まります。


写真は「古都の四季」「石の佛たち」「美しき日本」「わが街東京」の4つのテーマに分けて掲載されています。

 

「古都の四季」は平安神宮の桜から始まり夏・秋・冬を映し出しながら、春の「竹生まる」で終ります。

 

 

テーマごとに、こんな見開きをつけました。
テーマごとに、こんな見開きをつけました。

 

 

 

「石の佛たち」で紹介するのは、石峰寺の五百羅漢。

現在でも知る人、訪れる人はそう多くは無い場所に足を向けられていたのですね。

 

 

 

 

 

 

 

「美しき日本」では、山歩きがお好きだった氏が、友人や時には姪御さんたちと登り、撮影した日本の山々の写真が、多く載せられています。

雪の八方尾根や霧に浮かび上がる上高地、そして特に最後の、水車から覗く雪の忍野冨士は、氏の写真の魅力が最大限に発揮されていると思います。

 

 

 

 

「わが街東京」の最後は、やはり思い出深い新宿のライトアップ。

その後に、「自宅の松につらら」で54枚の作品は終ります。

 

 

 

 

石橋氏はあとがきでこのように書かれています。

「‥45年の歳月が流れ、撮りだめたたくさんの写真は、アルバムと私の心の中に、ひっそりとしまわれておりました。‥倉庫から懐かしいアルバムやネガが出てきました。一枚一枚感慨深く眺めているうちに、これらをひとつの写真集としてまとめたいという長年の夢を実現させようという意欲が湧き上がり‥」

 

写真集の最後に、愛器「Nikon]の写真と、医院を閉められる日に、石橋氏が診察室の椅子に座り、微笑まれている写真が掲載されています。

 

一枚一枚ページを繰り、最後のページまでたどり着いた時に、映し出された対象以外に「何か」を感じとってしまうのは、多分私だけではないでしょう。

 

このような作品の制作に携わることができたことを、心から感謝したいと思います。