淡交社からのご依頼で『清水三年坂美術館コレクション 明治の刺繍絵画名品集』の印刷を担当させていただいた。
サンエムカラーのスタッフとしての仕事である。
清水三年坂美術館は、近年ようやく日本でも評価が高まってきた明治の工芸美術を収蔵展示されている美術館であるが、これぞ超絶技巧!といえるものばかり。
明治の超絶工芸は、輸出品として作られ海外に渡ったもので、ほとんど日本に残っていない。コレクションも、近年館長が欧米から買い戻されたものでできている。そのなかで、刺繍絵画は特に知られていなかったものだ。
江戸時代、儀礼用の装束などに使われて発達した刺繍は幕府の滅亡とともに需要を失ったが、この技術を絵画表現の手段として利用し、欧米に販路を見いだして作られたのが、この刺繍絵画だ。欧米にはない工芸美術として高く評価された。
刺繍絵画には、西洋に追いつけという時代のなか、生き残りをかけて奮闘した明治の京都の職人の魂が込められているのだ。
色染めされた絹糸を筆のタッチのように走らせて刺繍されたその仕上がりは、絵画より細密で見るものを驚嘆させる。特に動物の絵は、獣の毛や鳥の羽が1本1本刺繍によって再現されていて、しかもその毛や羽が絹糸で立体的に表されているために、光をうけると部分的にきらっと光る。質感が本当にリアルなのだ。
刺繍糸の染めの濃淡なのか光をうけたためにこのように見えるのか区別がつかない。
編集の淡交社さんからの私たちへの要請は、刺繍の光を出すこと。ディテールの美しさを再現することであった。
写真の木村羊一さんは、ライティングを駆使してその光を表現されていた。展示ではなかなかうかがい知れない細部の光の美しさを写真に写された。
でも細部がライトによって光って飛ばないように、全体はアンダーな写真とされていた。
だから私たち印刷サイドの課題は、一番光っているところだけを選んできらりと光らせ、それ以外は少し明るくして見やすくするという作業をどう行なうかにあった。どの部分まで明るくするか、この選択によって刺繍絵画が印刷として再現できるかどうかが決まるのだ。下手して全体を明るくしてしまうと、明暗によって表現される光が逆に消えてしまい、木村さんの努力を無にしてしまう結果となる。
1枚1枚写真のディテールを見ながら、この部分の光を表現するという製版指示を出した。
細かい絹糸のディテールを再現するため、FMスクリーンを用いた。
ムック型の構成の本で、図版とともに本文も一緒に入るものだったので、用紙は艶のないマット紙が選択されていた。
印刷は高濃度で明暗差が際立つようにし、なおかつ、図版のみ艶のでるような工夫をした。絹糸の光を表現するためである。
これらによって、本をご覧になった方が、刺繍絵画を間近に見るような体験ができればと考えて印刷した。
「藤に孔雀図」
上の写真「藤に孔雀図」を部分拡大したページ
「獅子図」
「群鶏図」・・・伊藤若冲「動植綵絵」を下絵としている。
技法の説明