2017年 

     『良寛遺墨集ーその人と書』

  

執筆: 小島正芳

企画・編集: 関谷徳衛 

発行: 株式会社 淡交社

装訂: 株式会社 ザイン

印刷: 株式会社サンエムカラー

サイズ: A4変形

総貢:  第一巻 156頁

  第二巻 100頁

  第三巻 206頁

定価: 16000円+税 

2017年4月11日発行

 



『良寛遺墨集』の印刷を担当させていただいた。

1,2巻が図版篇、3巻が解説編のケース入り3巻セットという豪華本である。

収録作品は、初公開作を含む良寛の作品約130点とゆかりの人々の作品20数点、いずれも、万葉洞主人の関屋徳衛氏の蒐集によるもので、永年秘蔵され、展覧会などでもほとんど公開されていない作品が多い。

 

 図版篇は、風合いのある薄クリーム色の紙にカラー4色刷、解説編はモノクロ1色刷。

印刷は通常よりかなり細密な網点を使って行った。

書の印刷は、紙のうえから墨で書かれた文字が立ち上がってこなければ、リアルに鑑賞できない。原本を見ているように図録で鑑賞するためには、紙の風合いはきちんと再現したうえで、文字は、墨色の薄いところやかすれに色浮きがなく自然な形で再現しなければならない。案外これが難しい。

 


黄赤青黒の4色で印刷するので、紙色に微妙に赤や青の色浮きがでたり、文字のかすれの部分に赤の色浮きが出たりする。まして、風合いのある紙では、インキが紙にしみこむので3原色のバランスが崩れ、色浮きが出やすい。そうなれば、興ざめだ。色浮きが気になりだすと作品が鑑賞できない。微細なドットの密度で再現するFMスクリーンを使うという選択肢もあったが、それだと薄い色の紙地に色浮きが出る可能性が高くなるので、高精細の通常AMスクリーンを選択した。

 

製版段階では、淡交社の編集担当の河村さんからのご指示をいただいて、作品の凹凸による影やわずかな撮影時のライティングムラを修正し、文字の色ムラもかなり細かく修整して、原本を間近で鑑賞しているような気分で本を見ることができるように配慮した。

印刷では、同じ作品の紙色、墨色が揃うように、細かく調整しながら印刷した。

 

良寛の書には少し思い入れがある。

書の良さなど全く理解できなかった頃、もう15年以上前になろうか、良寛の販売用複製の仕事をさせていただいたことがある。

 

和紙に特色7色刷で印刷したが、校正の折に原本と比較すると、原本の書が生き生きとして素晴らしく見えるのに対して、印刷したものはどこかチャチなのだ。寸法も原本と同じで色もそんなに違うわけではない。それでも素人目で見ても圧倒的な差がある。

 

そこでようやく、書の濃淡と運筆のスピードという問題に気がついた。校正は濃淡の差が少なく、シャープさに欠けるためスピード感やリズム感がないのだ。たらーっとした印象で線が生きていない。どうすれば、原本の線の生き生きとした感じが再現できるのか、必死になって考えた記憶がある。なんとかお納めしたものは、原本の生きた線に近づくことができた。

 

このことがきっかけになって、書という芸術が好きになり、書の展覧会にも足を運ぶことになった。

まして今回は大恩ある良寛である。印刷に際しては、できるだけ生きた線が再現できるよう心がけた。