2013年 水野克比古写真集 

     『石峰寺  若冲 五百羅漢』

 

発行: 芸艸堂

装訂: 大西和重(株式会社ザイン)

印刷: 株式会社サンエムカラー 

印刷設計:三浦啓伯(玄元舎)

サイズ: H220×W240 

総貢: 72貢

平成25年3月27日発行

定価:本体2000円+消費税


芸艸堂さんから出版された水野克比古写真集『石峰寺 若冲五百羅漢』の印刷を担当させていただいた。

伊藤若冲は、近年再評価されて江戸時代を代表する画家の一人と見なされるようになってきた。
でも晩年彼が、京都伏見稲荷の南にある石峰寺で暮らしていたことを知る人は、まだ多くはないようだ。
若冲は、そこに自らデザインし石工に彫らせた石仏によって、釈迦の一代記を立体的に再現しようとした。
石仏は現在520体ほどが残されているが、当初は1000体ほどあったらしい。空前絶後の試みである。

五百羅漢と言われるものの、よく見かけるような修行僧 羅漢さんだけが並んでるのではない。
黄檗風の竜宮造りの門をくぐって、山に入ってゆくと、釈迦の誕生からはじまり、菩薩の来迎、釈迦の出山、説法、羅漢の修行、そして涅槃、賽の河原というように釈迦の一代記が展開される。
お釈迦さまの誕生もあるし、文殊や普賢さんもおられる。入滅を悲しんでいる動物たちまでいる。
それも、さすが晩年の若冲デザイン、ほかでは見ることのできないシンプルな形に抽象化され、ユーモラスな表情をしている。
悟り済ました顔はしていない。でも洒脱なのだ。

 

水野先生は、冬の斜めの日差しを程よいライトとして使って、この五百羅漢の表情を写し出された。
かつてよく見られたモノクローム写真による石仏の写真ではなく、やわらかい冬日に照らされたカラーによる石仏の写真表現をめざされたのだ。
イントロダクションとしては、石峰寺の四季のおりおりの表情が花とともにおさめられている。


版元の芸艸堂様と相談し、用紙は通常写真集でよく使うツヤのあるアート紙系統ではなく、表面がテカらず風合いのある紙を使ってみた。
水野先生の市販本としては、初めての試みである。
対象が石仏であり、石肌の質感の表現に適していると考えたからだ。ただし、イントロ部分の花のあでやかさが表現できるかが問題であった。
製版では、やや明るくコントラストな画像にして、印刷して少し沈み込んでも大丈夫にしておいて、印刷で少し盛り込む設計とした。
特に四季の写真は、もう一段彩度と、シャドー側のボリュームをあげた。
図版の上にだけは、インキの沈み込み止めと汚れ除けのためニス刷を施した。これによって紙地と図版の差を付けることを考えた。
要するに、四季の風景写真は鮮やかに、しかし、石仏は質感をもって、風合いのある紙から浮かび上がらせる、そういう設計である。

水野先生は、当初この紙への印刷に不安を持っておられたようであったが、試し刷をご覧になって「大丈夫だね。安心した」とおっしゃられた。先生に気に入っていただけた、私も一安心であった。これで、用紙のバリュエーションが一つ増えたことになる。
今回も、水野先生に印刷立会をしていただいて刷り上げた。