2013年 水野克比古写真集 

     『京都茶庭拝見』

   

  発行: 光村推古書院

  装訂: 大西和重・大西未生(ザイン)

  印刷: 株式会社サンエムカラー 

  印刷設計:三浦啓伯(玄元舎)

  サイズ: B5変 

  総貢: 120貢 

  平成25年6月27日発行

  定価:本体1600円+消費税

表千家「不審菴」
表千家「不審菴」

光村推古書院から出版された水野克比古先生の写真集『京都茶庭拝見』の印刷を担当させていただいた。

茶席に至る露地、茶席をとりまく庭を取り上げた写真集だ。三千家の茶庭からはじまり、現代のビルの一隅にもうけられた茶席の庭までを一覧する。

草庵の侘びた小さな茶席だけではなく、公家大名の書院の茶席までも視野に入れて、現在までを見渡した編集なので、全体像がよくわかる。

茶庭は一般に拝観できるところが少ない。茶道に不案内な私でも、この写真集を繰っているだけで少し体感できた気がする。

西芳寺「湘南亭」露地
西芳寺「湘南亭」露地

茶席の撮影はなかなか許可が難しく、たびたび機会があるわけではない。だから、以前撮影された大判のアナログ・ポジフィルムと新規に撮影されたデジタルデータの写真をとりまぜて、一冊の本にまとめることになる。

 

デジタルカメラによる写真では、植物の緑の色合いが従来のポジフィルムによる写真と比べて浅く写ってしまう。水野先生からは、「デジタルデータの緑の発色を、くれぐれもポジの色に近づけるように」とのご指示をいただいて進行した。

鶴屋吉信「游心」露地・松栄堂 露地
鶴屋吉信「游心」露地・松栄堂 露地

京都の茶庭がなぜ優れているのか?それは、湿気を含んだ土地に建てられているために、苔がうまく生育するからだ。

 

ほかの都市ではなかなか苔は育たない。しっとりとした苔の緑に囲まれた茶席の風情は、京都特有のものなのだ。だから、京都の茶庭の再現には、緑の再現が重要だ。

このあたりまえのことを再認識させていただいた。

光村推古書院で編集にあたられた上田啓一郎氏が、本の完成後急逝された。

水野先生とともに印刷に立会っていただいた時にも、本当にお元気だった。

次の水野先生の写真集の話や、今後出版していきたい京都の日本画や工芸の作品集について、お話しをさせていただいていた矢先のことであった。

上田氏とは、サンエムカラーで数十冊の仕事をご一緒させていただいた。

何よりも、出版の仕事などしたことがなかったサンエムカラーに、写真集をはじめて発注し、奥付に「印刷:サンエムカラー」の名前を入れて下さる決断をされたのが、上田氏であった。

ご恩は忘れることはできない。

心からご冥福をお祈りしたい。