京都の町家はすばらしい。どこがすばらしいのか、なぜすばらしいのか、それを教えてくれるのがこの本だ。
京町家のすばらしいところを挙げてみる。
間口が狭く奥行きが長いうなぎの寝床といわれる地割のなかに、さまざまな意匠と工夫を凝らした建物と庭が配置される。
表の柱や格子にはべんがらが塗られ、玄関をくぐり店の間(ま)に入ると、店と主屋の両方に光を入れ、くつろぎを与えてくれる坪庭が見える。
奥の主屋の座敷に通されると、そこには聚楽壁と呼ばれる壁土で仕上げられた落ち着いた床(とこ)があり、瀟洒な欄間や唐紙(からかみ)の襖がはめられている。決して派手な訳ではない。しかし、本当に趣味いいつくりだ。
そして、座敷からは奥の庭が望める。けっして大きくはないが一つの世界が構成されている。
そして座敷は、夏には襖や障子を風を通す葭戸(よしど)に替え、籐の敷物を敷く工夫がなされる。
これらを支えているのが王朝時代の雅を始まりとし、室町の禅と茶の文化をふまえて町人たちが自らのものとした京の美意識だ。
この美意識は町家の主人だけが持っているものではない。それを支える職人や庭師たち、さらにいえば下町の長屋にまで貫かれている。これは、この写真集に載せられている歳時記をみてもわかる。季節季節の節目の行事を大切にし飾りつけ楽しむ。見事なものだと思う。
日本の各地には、すぐれた伝統的な住宅が残されている。その土地土地のなり立ちを写し出してそれぞれがすばらしい。しかし、京の町家にはプラスアルファがある。この写真集はそのことを教えてくれる。
私は水野克比古先生とのおつきあいのなかで、京の町家のすばらしいところをひとつひとつ教えていただいた。そのことが少しでも伝わるようにと印刷設計した。