2012年6月
「善了寺 聞思堂の建築」
発行: 宗教法人 善了寺
企画・編集: スローデザイン研究会
建築写真: 浅野 豪
デザイン: 浅野 豪
印刷・製本: 玄元舎
6月21日(夏至)発行
縦 21cm
横 10cm
頁数 44P
善了寺様の「聞思堂」というお堂のパンフレットの印刷を担当させていただいた。
聞思堂は、木・藁・竹・土といった自然素材でつくられた建物で、電気を使わない暖房・換気装置を備え、行く行くは太陽光による電力の自給を目論んで作られている。
これは、かつて建築が地域の森や田んぼとつながり、自然の循環の一環であったことを今の時代に再生しようとする試みであり、また建立の過程でも、壁の藁積み、竹組み、土塗りなどは門徒さん(檀家)や一般参加の人たちが協力して作ってゆくことが行われ、かつて寺が地域のコミュニティセンターでもあったあり方を復活させようともされている。
ご住職は「原子力発電所の事故は、わたしたちの生活が生み出したものです。被爆の悲しみは、私が生み出しているのです。3.11までは恥ずかしいことですが、自分と結びついていませんでした。『他の人の悲しみを知る」とは、私の生活が具体的に変わっていくことなのです。聞思堂には、他の人の悲しみを決し』粗末にしない多くの英知が結集されています。どうぞ共々にその叡智から学び、聞思のこころをよりどころに、3.11後の世界を生み出していきましょう。」と述べておられる。
だから、このパンフレットも自然素材にこだわり、エコロジーペーパーに印刷するというコンセプトで、用紙も選定されている。大量に伐採されて作られる針葉樹パルプの紙ではなく、表紙は竹、本文はケナフの繊維で作られた紙を使った。
この仕事のご縁は、浅野豪さんからいただいたが、浅野さんは写真とデザイン、アートディレクションを担当された。
浅野さんは、世界的な建築家I.M.ペイ氏に嘱望された建築写真家故東出清彦先生の最後のアシスタントで、先生のお仕事で何度もご一緒させていただいた方である。
建築写真は浅野さんの手によるものだが、東出先生ゆずりの緊張感のある画面を構成されている。
印刷は、墨・グレーの2色によるモノトーン表現(ダブルトーン)で行ったが、なにぶん、竹・ケナフの紙はインキが沈み込んで印刷が難しく、かなり難航した。これも東出先生ゆずりの厳しい指摘を受けて、必死で版の濃淡を読み込み、印刷でも無理をいってかなりの高濃度で印刷し、なんとかまとめきることができた。
いろんな意味で、思い出深い仕事になった。